「10/40の窓」の特徴

1989年、宣教学者のルイス・ブッシュがユーラシア大陸とアフリカ大陸を貫く北緯10度から40度までの地域を「10/40の窓」と呼び耳目を集めました。イスラム教、仏教、ヒンドゥー教などを主要な宗教とするこの地帯には、福音が十分に伝わっていない町々の約半数が集中しています。また、その地域に位置する多くの国々は、公式、非公式にキリスト者の働きに反対しています。それゆえ、福音に対して抵抗的な地域とも呼ばれています。「10/40の窓」はアラビア半島、中東、北アフリカ、中央、東南アジアなどを含む広い地帯です。そこに位置する国には、アフガニスタン、イスラエル、エジプト、シリア、トルコ、カンボジア、タイ、北朝鮮、中国、セネガルなど60か国ほどがあり、日本もその中に含まれています。また、昨今では、インドネシアをそのリストに加える学者もいます。民族集団(people group)の約90%が福音化されておらず、多くの人が一度も福音を聞いたことがないのがこの地帯の現状です。「10/40の窓」には世界人口の2/3が集中しており必要が多い一方、そこで仕える伝道者は働き人全体の10%にとどまっています。

「10/40の窓」の動向

米国のある大学が発表した最新の統計によると、アジア、アフリカはクリスチャン人口が著しく増加している地域です。具体的には成長率がアジアは1.89%、アフリカが2.89%で、ヨーロッパの0.04%、北アメリカの0.56%を凌駕しています。この統計が端的に示しているのは、福音に対して抵抗的であり、福音宣教が不十分であるとされてきた「10/40の窓」およびその周辺地域において、福音化が活発になされているということです。また、昨今の聖書翻訳事業の進展は、「10/40の窓」地域における宣教の進展を目に見える形で示しています。名古屋聖書バプテスト教会で開かれた宣教カンファレンスでは、世界各国の翻訳聖書を展示しました。その中に、ペルシャ語の聖書がありました。ペルシャ語は、世界中で広く使用されている言語ですが、アフガニスタンのペルシャ語はダリー語と呼ばれて、イランのペルシャ語と区別されてきました。両者の言語的差異は大きくないのですが、アフガニスタン宣教のためにダリ―語にも聖書が翻訳されて、ついに2007年に『ダリ―語訳聖書』が上梓されました。また、1996年に発行された『アジア伝道史』(渡辺信夫著)において、「ポル・ポト政権のもとでキリスト教は壊滅したと見られる(p.227)」と報告されていたカンボジアでは、その後キリスト教が息を吹き返し、2005年には『クメール語標準訳聖書』が刊行され、さらに音声聖書やスタディーバイブルも作成されました。これらは、「10/40の窓」における宣教が着実に前進している端的な例です。

「10/40の窓」の可能性

ところで、現在、教会が急成長しているとされる国が「10/40の窓」の中にあります。それは、ネパールです。この国では1990年代まで宣教活動が許されませんでした。また2017年には信教の自由を制限する法律が制定され、今でも福音に対して抵抗的な国であると言えます。では、どのようにしてこの抵抗的な地で福音化が始まり、今日の著しい成長へとつながっていったのでしょうか。ひとつのきっかけは、ネパール人青年たちの外国留学だったと言われています。宣教団体への制限がかなり厳しかった時代、留学で外国に行った青年たちがそこで福音を聞き、母国に帰ってから証をしたのです。結果、たくさんのクリスチャンが誕生しました。福音のための「窓」が、国境を超える若者たちへの福音宣教によって開かれたのです。日本においても、1993年に導入された技能実習制度により、昨今、在留外国人の数は増加の一途をたどっています。その多くがベトナム、中国、インドネシア、タイ、カンボジア、ミャンマーなど「10/40の窓」から来た青年たちです。バプテストの宣教学者ジョン・テリーは、世界がこちらにやってくる時代になったと語りました。「こちらにやってくる世界」に福音を伝えること。それが「10/40の窓」を開くための鍵となりえます。

「10/40の窓」の展望

最後に、「10/40の窓」の今後について考えます。2013年、中国の習近平国家主席がシルクロード経済帯の建設構想を公に打ち出しました。いわゆる、「一帯一路」構想です。北東アジア、中央アジア、東南アジア、南アジア、西アジア、独立国家共同体そして中東欧などを、インフラ整備やビジョンの共有などによって結んでいこうとする構想です。この構想においては、インフラ接続などハード面のみならず、民間組織の交流協力や、国民レベルの相互理解促進などソフト面での接続も視野に入れられています。この構想自体は国際社会で様々な批判を受けていますが、これを「10/40の窓」における福音宣教前進のための好機到来と見て、今後の動向を注視している宣教団体も存在します。なぜなら、「一帯一路」の沿線国リストには、「10/40の窓」に位置する国々が実に30もあがっているからです。仮に、キリスト教の成長率が年間7%とも言われる中国からクリスチャンたちが飛び出し、現代版シルクロードを通って宣教師が自由に活動できない国々で福音を伝えたとしたら、何が起きるでしょうか。本格的な異邦人宣教は、散らされた一般のクリスチャンによる異文化への果敢な接触とともに始まりました(使徒11:19-21)。近い将来、難攻不落の「10/40の窓」地帯で福音の凱歌をあげるのは、国境や文化の枠組みを超えて自由に証ができる一般のクリスチャンたちなのかもしれません。

上記の情報は宣教クォータリーの2019夏号の記事からの抜粋です。著者は名古屋聖書バプテスト教会の上田平安伝道師です。